「いつか、僕らの途中で」を読む ― 2006-02-09 23:22
柴崎友香さん・田雜芳一さんの「いつか、僕らの途中で」、読みました。
山梨で私大の附属高校の教師をしている彼と、京都に残り院修士2年目の彼女の往復書簡集。イラストと彼の手紙部分は田雜さんが担当している。
だから、いままでの柴崎さんの作品とはちょっと雰囲気が違う。
イラストには、わたしのなじんだ京都の風景が描かれている。
昔話になるが、京都には、大学入学前に予備校に通った。当時はまだ市電(チンチン電車)が走っていた。夏、御所の道を通ると京都の熱さとともに蝉時雨が降りかかる。市電には乗らず、今出川から河原町まで、ひたすら歩いていた。孤独だったし、その孤独を楽しめる若さと物怖じしない精神があったような気がする。
それから30年、市電はなくなりその軌道跡の石は、哲学の道や清水の三年坂に転用されたと聞いている。
でも、意外と京都の町は30年前と変わっていない。
四条大橋から鴨川の上流を眺めると、京都の北山が目にはいる。凛とした空気が漂う厳冬、四条大橋から眺める北山は美しい。
京都は、桜が順次、咲いていく。円山公園、賀茂川ぞいの半木(なからぎ)の道、白川疎水沿いの桜・・・。有名な寺院ではなく、疎水沿いに隠れた桜の名所がたくさんある。
この本でも、わたしのすきな京都が文章とイラストを通して、目の前に広がっていく。
「桜が散った後の軸の赤色と葉っぱの緑色の組み合わせって、好きやわ」(同書27頁)。葉桜の美しさを、こんなに的確に表現している。
48頁、51頁のイラストは、四条大橋ですよね。
そして28頁のイラストは、高野川と賀茂川が交差するさまを出町柳の方から見た風景ですね。とても雰囲気がやさしくてステキです。
メールがあり、携帯電話がある時代に、手紙を書くということ。
その静けさが伝わってくるような佳品です。
彼女がベッドに寝っ転がりながら、彼と携帯電話で話しているイラスト(同書59頁)。
そのせりふは、
「めっちゃ待ったやん ・・・うそ」
この関西弁のやさしさは、吉本流関西弁(TVで流される、ことさら姦しくデフォルメされた関西弁)になれた人にはわかりにくいかも。
この関西弁のやさしさを、わたしは愛しています。
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