「中原中也との愛」を読む ― 2006-04-17 23:27
老いたる者をして
——「空しき秋」第十二
老いたる者をして静謐(せいひつ)の裡(うち)にあらしめよ
そは彼等こころゆくまで悔いんためなり
吾は悔いんことを欲す
こころゆくまで悔ゆるは洵(まこと)に魂を休むればなり
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二十歳の頃、中原中也の詩集を諳(そら)んじることができるほど読んだ。
二十歳の自分にとっては、見たこともない語彙、韻律を踏んでいるのが魅力的だったのかもしれない。
そして、戦前に作られた詩でもあるにもかかわらず、時代を感じさせない詩。
彼の年譜を読むと、長谷川泰子という女性をめぐって文芸評論家の小林秀雄との三角関係が見て取れる。
この本は、1974年(32年前)に長谷川泰子から取材したものをまとめたもの。この時、長谷川泰子は70歳。
小林秀雄は、中原中也・長谷川泰子との関係を積極的には語らず、中原中也はすでに亡くなっている。
だから、この本は、長谷川泰子から見た中原中也・小林秀雄像であり、真実はやはり藪の中だ。
だが、この本を読むと、大正から昭和初期の京都・東京の街の匂いを感じることができる。
まだ着物を着る人が多く、帽子をかぶることが流行し、土ぼこりのする道には車の数も少ない。
そして、なぜか仕事をしていなくても、食べていけるという時代の不思議さ。
長谷川泰子は、晩年(55歳)、ビル管理人として働いたのが、はじめて生活のために勤めた経験なのだ。
近代日本の、土ぼこりのする街の雰囲気を知るには、興味深い一冊だ。
発刊されて32年後に文庫化される本というのも、めずらしいなぁ。
巻末の作家川上弘美の解説も秀逸。

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