気分はダークじゃないけれどー村上春樹「武蔵境のありくい」2025-06-12 21:48


梅雨のひと休み。昼は近場の喫茶店に赴き、読書。


文芸誌新潮5月号に掲載されている村上春樹の短編小説「武蔵境のありくい」を読了。
副題の「〈夏帆〉その2」は先に掲載された新作短編「夏帆」と連作だと思ったけれど、ストーリー展開がちょっと異なるような。
前作は昔の短編小説「沈黙」を読んだときの感覚と似たものだった。「人間の悪意」というものを描いているのだが、時を経て、SNSなどが「万人の万人対する無秩序な戦い」の様相を呈しており、ホッブスのいう社会契約説って何? それって美味しいの?という「悪意優先」の社会になりつつあるのではないか。



「夏帆」では人の感性(とくに隠れた劣等感)を刺激しコントロールすることに快感を覚えるような人物が登場する。主人公の女性「夏帆」はそれに対抗する姿勢を、それも単独で自立して、とるのだがこの態度は現在のSNS社会ではなかなかむつかしい立場だ。
でもたぶん必要となる立場だ。

そして今作。読み進めながら、思い出した作品は「かえるくん、東京を救う」という短編小説。「かえるくん、東京を救う」では、平凡な男性会社員と「地下のみみずくん」と戦うかえるくんが登場して、シンクロしながら地震から東京を救う。

今作ではひとりの女性絵本作家と、ジャガーから逃れてブラジルから日本に来たありくい夫婦がシンクロしながら「邪悪なもの」に立ち向かっていく。

人を破滅させるものが地震などの災害であることは事実だろうけど、最近は「邪悪なるもの」が社会の停滞と貧しさのために進行しているように感じる。

村上春樹の小説は、読者に自由な読み方を提供してくれるので、ひさしぶりに良い文体を読んだ。
作家は老人になると「人生訓」を説いたり、昔話に終始しがちになるけれど、村上春樹は文体が若々しい、いや若作りしていない。

「早朝だ。口の中が小型の砂漠を丸ごと呑み込んだみたいにからからに渇いていた。彼女は布団から出て台所に行き、冷たい水をグラスに三杯続けざまにごくごくと飲んだ。渇きが癒され、それでようやく一息つくことができた。」

こんな文体はなかなか書けない。

あとは中公文庫の関川夏央「昭和時代回想 私説昭和史3」を電子書籍で読み進める。

ところでブログの背景色を変更した。CSSを修正してブログ画面を本格的に変更しようとしたが、めんどくささが先立つ。備忘録のようなブログなので、自分が読むことが多い(苦笑

老人となり、明るい画面が見づらくなり、PCの設定、ブラウザ、ターミナルもTango-DarkやMonokaiなどダーク基調に設定することが多くなった。とりあえずブログ画面をMonokai基調に変更してみた。

気分はダークじゃないけれど、ブログ画面はダーク基調です。

午後は公園で1時間ほどミニ筋トレとストレッチ。骨折術後、2年5ヶ月が経過。肩甲骨が固まりやすいのでストレッチなどは日々必要な身体になっている。

そうそうもう20年近く前に「沈黙」についてブログ記事を書いている。



コメント

_ たっちゃん ― 2025-06-16 09:44

村上春樹に反応してしまいました。
むかしロードバイクを始めたころ、情報が欲しくて、いろんなブログを渡り歩きました。その時、ロードバイク、村上春樹というワードで検索しヒットしたのが、asyuuさんとペダルさんでした。
お二人のブログでいろいろ勉強させていただきました。ペダルさんは今もお元気で活動されているみたいですね。
村上春樹はもう卒業かなと思いつつも、やっぱり気になってしまいます。連作楽しみです。

_ asyuu>たっちゃんさん ― 2025-06-17 22:27

村上春樹の長編に関しては「海辺のカフカ」があまりピンと来なかったので、それ以降の作品を熱心には読んでいません。単に私の気力が低下しているせいかもしれませんが、短編集やエッセイのほうが村上春樹らしい文体のような気もします。

ペダルさんはインスタなどで精力的に自転車活動をされているようです。

私はいつかは自転車に乗れなくなる日も来るので、それまでのんびりと生きていきたいもんですわ。

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