東野圭吾「時生」を読む2006-03-02 23:04

時生

わたしは、ストーリーのある長編小説をあまり好まない。色彩とか匂いとか、感情の流れが、思いもかけない言葉で表現されている短編小説が好きだ。だから、村上春樹の短編集(ベスト1は、「象の消滅」か)を愛読している。

ストーリーがあり、長編小説というと、ミステリー小説が代表かな。
今回、読んだ「時生」は、じぶんからは手に取る小説ではない。友人に「これはおもしろい」と薦められて、読み始めた。

これが、とんでもなくおもしろい。

難病であることを宿命づけられた時生という少年。彼の病が進行し危篤状態となり、父親の回想が始まる。

父親(拓実)の23歳の時に時代は、さかのぼる。拓実は、実の母親に捨てられたという負の遺産を抱えて、自堕落な生活を送っている。仕事にも就かず、恋人千鶴の用意したガードマンの仕事も面接段階で面接官とケンカして反故にしてしまう。そのころ、拓実はトキオという青年と出会う。
トキオは、じつは時を超えて(たぶん危篤状態の時生)が、父親である拓実に会いに来ているのだ。

父親である拓実と、母となる麗子が出会うまでのさまざまな出来事のなかでトキオがキーパーソンとなる。

23歳の拓実は、世をすね、虚勢を張り、短気なあかんたれ(ダメ男という関西弁)だ。
最初、拓実は、トキオに反発する。しかし、恋人の千鶴が、闇の組織にうごめく事件に巻き込まれていくなかで、次第に拓実の出生の秘密が明らかになり、生き方が変わっていくことになる。

千鶴の女友達、その恋人の元ボクサーである黒人、やくざな連中らが登場する大阪でのストーリーの展開はスピーディー。作者の東野圭吾は、大阪府生まれ、大学も地元の大阪府立大学なので、さすがに鶴橋や難波などの大阪の場面を描くのには臨場感がある。

拓実は、トキオを媒介に、次第に自分の生まれてきた意味を悟るようになる。
そして、時生が危篤状態になったとき、拓実は息子である時生(トキオ)と出会う運命であったことに気づくのだ。

ある意味、この小説は、みごとな「輪廻の物語」なのだ。

最後に、拓実がもう息をしない息子時生(トキオ)に、叫ぶ言葉は、「輪廻」へとつながっていく言葉だ。

コメント

_ kkk ― 2006-03-20 21:20

時生は最高だ~~~!!!

_ jonney ― 2006-08-14 11:21

私も読み終え、落涙しました

_ 福田浩司賞味大臣 ― 2008-08-11 04:32

読みました舞台となる1979年頃の大阪が魅力的。複雑な境遇のダメ男でしたがトキオの明るさに救われました

_ 南 ― 2009-06-15 00:28

私は、大分前なんですけど・・・NHKのドラマの方と小説の方を見ました。
ドラマは、本よりやっぱりリアルですごく感動しますよ^^
小説の方も、買って読みました♪
やっぱり、素晴らしい作品だったと思います。

私は、お気に入りの本に中々出会う事がないのですが・・・
時生は、今では私のお気に入りの本の一つです♪
今度、友達にも貸す予定です^^

まだ、時生を読んでない方がいたら、ぜひ読んでみて下さい!
好き嫌いが分かれるとは思いますが・・・
読んで損はない本ですよ^^

_ asyuu>南さん ― 2009-06-16 00:36

古い記事にコメント、ありがとうございます。
「時生」は読後感のよい小説ですね。
また読み返してみようと思います。

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_ 日々のことわり - 2006-11-26 14:43

この作家は書店等で名前はよく見るがこれまで読んだことがなく、これが初読です。この作品を読んでいて『四日間の奇跡』(浅倉卓弥)、『流星ワゴン』(重松清)を思い浮かべました。スピリチュアル&タイムパラドクスとでもいうのか、意地悪な言い方をすると『現実にはあり....

_ 本を読もう - 2007-03-21 08:52

 グレゴリウス症候群という難病で死に瀕した愛息の枕元で20数年前の不思議な出来事を妻に告白し始める宮本拓実。
 大口を叩くばかりで何一つものにならず,仕事も恋人も失いながら,それでも将来を見出せないでいた拓実の前に現れた「トキオ」と名乗る謎の少年。浅草〜名古屋〜大阪と「トキオ」に導かれながらの感動的な成長物語。

_ itchy1976の日記 - 2009-02-06 22:55

時生 (講談社文庫)東野 圭吾講談社このアイテムの詳細を見る

今回は、東野圭吾『時生』を紹介します。本書は不治の病を患う息子の最後のときに、宮本拓実は妻に23歳時にあった少年との思い出話である。

宮本拓実の23歳の時はろくでもない生活をしていた。ふてくされていたといってもいい。まともな仕事にを見つける努力をしないで、世間からあぶれているのは自分のせいでなく、自分を捨てた者のせいだと思っている。そのときに未来から来たトキオという青年と出会うのである。警備会社の面接のあとで、突然恋人の千鶴が姿を消すのである。トキオと共に千鶴を探すのがこの話の中心である。それと共に、自分の出生の秘密も知ることになる。

人のせいにしても、悪い状況がいい状況に好転しないのである。自分が未来を勝ち取るように努力しないといけないなと思う。

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