Today's Word あの夏の・・・2005-11-29 00:22

フェリー太陽から見た口永良部島
あの夏の 数かぎりなき そしてまた たった一つの 表情をせよ

小野茂樹

数多くの短歌のなかで、一番好きな短歌は?と聞かれたら、まっさきにこの歌を挙げる。
その理由のひとつは、小野茂樹の人生。

小野は、1970年、33歳で交通事故死している。小野は、東京教育大付属中・高で同級生の少女と親しむ。
だが、彼女は別の男性との結婚。小野は、早稲田大学に8年在籍して中退。
編集者となり、26歳で結婚するも、すぐに離婚。ほどなく少女も離婚し、29歳のとき二人は再婚している。
だが、かれの交通事故死で、4年あまりの結婚生活も人生も、終止符が打たれる。

この歌に、力強さとともに哀切が漂うのは、彼の「在ったかもしれない人生(それが幸福だったかどうかは、わからない)」を想像してしまうからだ。

もうひとつは、好きな夏の情景をみごとに切りとっているから。
つよい日射しのなかだからこそ生じる陰影。それは、恋する人の顔にも陰影を生じさせる。揺らめくようでいて、しかしそこにしかない表情。

口ずさんでみてください、すぐに覚えて、夏がくるたびにフイに口をついて出てくるようになります。

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