新海誠「小説・秒速5センチメートル」を読む2007-11-30 00:05

小説・秒速5センチメートル (ダ・ヴィンチブックス)
新海誠さんの初小説を読んでみた。彼のアニメーションはNetなどでも話題になっていたが、実はまだ観ていない。

私は色彩を、匂いを、そして音を感じることができる小説が好きだ。この小説には存分にそれらを感じることができる。

遠野貴樹という青年の魂の遍歴と言うには陳腐すぎるだろう。 「桜花抄」では彼は10歳から13歳であり、「コスモナウト」では高校生として、「秒速5センチメートル」では大学生・社会人として立ち現れる。

それぞれの3つの連作短編がどれも風景も匂いも異なるのだ。 関東郊外のどんよりとした冬景色、種子島の抜けるような青空、そして都会の自由と孤独が描かれていく。

彼はさまざまな女性に出会いキーポイントとなる言葉を与えられる。
・貴樹くんはこの先も大丈夫だと思う。
・でも私たちが人を好きになるやりかたは、お互いにちょっとだけ違うのかもしれません。そのちょっとの違いが、私にはだんだん、すこし、辛いのです。


人と出会うということは言葉のやりとりをすることなのだ。だからこそ時には相手を傷つけてしまうこともある。等分に自分も損なうこともある。
人は憎しみに身をゆだねたり、距離を置くことによってしか、自分を保てないときがあるのだろう。

この小説を読みながら、わたし自身もさまざまな女性から与えられた言葉を思い起こしていた。だがその言葉はほんとに「事実」だったんだろうか。人との取り結びは刑事裁判ではないので、茫洋としており審判を下す人はいない。

この小説では、曇った空から落下してくる雪、海に浮遊する感覚、桜の花びらの頼りなげに流れていく速度、都会の街を歩くときのキリッとした感覚、それらがリアルに感じられる。

屋久島と口永良部島(くちのえらぶじま)を結ぶフェリーから見た種子島の扁平な地形も思い出す。

もう1度、ゆっくりと再読してみよう。そして、アニメ作品のほうも観てみよう。


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