金城一紀「映画篇」を読む2007-08-15 00:48

金城一紀の最新小説「映画篇」を読了。いつもは速読なのに、コース料理を味わうようにゆっくりと読み進めていった。

映画に絡めながらストーリーが進んでいくが、それぞれの短編が独立しながらもリンクして最終話に収斂していく。著者の企みは気持ちよくて,読者も次第に著者の企みに気づき始めるようになる筆力が心憎い。

本の前扉にあるオードリ・ヘップバーンの「ローマの休日」のポスターがキーポイントだ。

第1話「太陽がいっぱい」
太陽がいっぱい【字幕ワイド版】
「GO」に通じるような作品。民族学校、男の友情、現実に抗いながら屈服されそうになりながらも続く成長の物語。「物語の力」を信じようとするまっすぐな力を,私は冷笑したくないと思わせる作品だ。

第2話「ドラゴン怒りの鉄拳」
ドラゴン怒りの鉄拳 デジタル・リマスター版
ほーっ、この映画が来ましたか。ブルース・リーが戦い終えて最後に見せる切なさを帯びた表情が,単なるアクション映画を越えていると私は密かに思っている。
突然の夫の自殺を経て、その裏にある社会的不正義に立ち向かおうとする女性の再生の物語。

第3話「恋のためらい/フランキーとジョニーもしくは トゥルー・ロマンス」
恋のためらい フランキー&ジョニー トゥルー・ロマンス
不登校がちな女生徒との「純愛」を描いている。でも、ふつうの「純愛」じゃないところが金城一紀らしい。

第4話「ペイルライダー」
ペイルライダー
ちょっと異色なハードボイルド形式。暴力団幹部に家族を殺されたおばちゃんが、「トゥームレイダー」のアンジェリーナ・ジョリーみたいに大活躍する。 両親の離婚に悩む小学生の子どもと絡ませているという異色作。

第5話「愛の泉」
愛の泉
本の前扉の「ローマの休日」のポスター画の謎、そして各ストリーがリンクして大団円に至る最終話。会話の流れやユーモアが金城一紀らしい。

ダ・ヴィンチ最新号で著者の金城一紀は
「読んでくれた人にポジティブな化学反応が起こるような小説(物語)を紡いでいけたらと思っています」と語っている。

1970年代に流行したアートシアター系映画や人生の苦悩を背負ったような私小説・箱庭小説にはあまり興味がない。 現実は充分に残酷なのだから、それをはね返すだけの想像力と潔さが私は欲しいのだ。

酷暑の中、気持ちよく読み進めていける本です。 うむ、週末、ロードバイクで思いっきり走りたくなってきた(単純)。


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