玄侑宗久「龍の棲む家」を読む2009-02-03 22:37

龍の棲む家

玄侑宗久「龍の棲む家」を読了。この作者の本はすんなりと読めるものとそうでないものが何故かある。今回は短篇でもあり文章が淡々としていて読みやすい。すんなりと作者の世界に入っていける。
人は肉体から滅ぶのか、精神から滅んでいくのか。精神が斜陽に向かうとき、あるときは鬱として、認知症として顕現するのかもしれない。

市役所を退職し70代半ばの認知症の父を看護する次男。花の風景や水の景色、そして父が若かりし頃の家族の団らん、それらがすべて夢かのように父の認知症は進行していく。次男も事実上の妻と別れ、あまり流行らない喫茶店をたたみ父の看護に専念している。

そこに現れる介護ヘルパーの30代半ばの女性。三人の屈折や想いが、父の認知症を梃子として展開していく。
人にはそれぞれ心の闇がある。その闇が如実に顕現するのが「認知症」の一側面かもしれない。精神の枠を取り払ってしまうような人の心の不思議さと残酷さ。

ただこの作品は陰惨で暗いものではない。静かで凝縮された文章と、次男と介護ヘルパーの女性の間で生じる生きることへのエネルギー。巻末の文章がとてもいい。


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