2015年のフォークロア2015-05-30 17:17


文学界新人賞の「サバイブ」を読んでみた。 文學界2015年6月号

「俺は男友達の主夫をしている。子供はまだない。」

という文章で始まるこの小説、最近話題になっている同性婚が主題なのかと読み始めると、そうじゃない。「主夫」はあくまでも比喩なのだ。

グローバリズムの先端を行く外資系企業に勤める二人の男の生活に、フリーターっぽい男が入り彼らの主夫として共同生活を始める。
彼らのトライアングルに外資系企業に勤めるエリート女性が入ってきて、トライアングルに軋みが生じ、そして彼らの生活感、学生時代、価値観のようなものが後半明らかになってくる。

2000年代格差社会と言われ、非正規雇用の増大・中間層の痩せ細りのため、日本はかなり貧しくなっていると言われる。
でもこの小説は東京を舞台に、ゲーム理論でリアルを生きていく新しい世代が描かれ、ちょっと洒落たもの(自転車やベルギービールなど)が配置されて、乾いた文体が特徴となっている。

直裁に言うと「なにカッコつけてんだよー」というやっかみも生じさせるような短編だ。

この小説を読みながら村上春樹の短編「我らの時代のフォークロア―高度資本主義前史」を思い出した。村上春樹のこの短編も「なにカッコつけてんだよー」と当時は言われたんじゃないかな。
この短編で村上春樹は「性的なるもの」を幻想そして、自我の傲慢として表現しているように思えるけど、「サバイブ」は「性的なるもの」も他者との比較(AVが他者たる男性を意識させる)でしか捉えられなくなっている。

ゲーム理論でも自己承認のリアルを超えることは出来ないのではないかと、ふと思ったりする。

ちょうどこの本も読んでみた。
持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない

前著も比較的好きな本だったけど、今回の本はニートとして生きるというよりは「大正時代の高等遊民」っぽい主張になっているような気もする。

対極にあるような本だけれど
「サバイブ」の著者は1983年生まれ。千葉県出身。32歳。東京大学経済学部卒業。現在、会社員。タイ在住。

「持たない幸福論」の著者は本人曰く、「1978年生まれ。大阪府大阪市出身。京都大学総合人間学部に入学するも、オンボロ学生寮に入ってダメ人間的生活に目覚め、6年をかけて卒業。社内ニート的なサラリーマンを3年続けたが、2007年に仕事がだるくなって退社、以降定職に就かずに本格的にニート道を追求する」と紹介されている。

エリートサラリーマンとエリートニート、単に学歴比較ではなく、意外と通底するものに同質性を感じてしまう。要は表現しないでは(文章であれ、生き方のスタイルであれ)おられない人たちなのだ。

村上春樹が表現した「欲望資本主義前史としてのフォークロア」から時を経て、「2015年のフォークロア」が二つの著作には顕在化してきているような感じがする。



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