羽田圭介「走ル」を読む2008-03-16 23:17

今日は雑用があったので自転車には乗ることができなかった。昨日、いちおうしっかり走ったのでまあいいか。空き時間で小説「走ル」(羽田圭介・河出書房新社)を読了。

枕帯には「授業をさぼった僕を乗せて自転車(ビアンキ)は、ひたすら北へと走る」と書かれている。
陸上競技の朝練のあと、復活したロードバイクでそのまま東京から北上する高校2年の男子が主人公。
1時間目の授業をさぼって帰る予定が標識に魅せられて北上していく。

そして青森までの行程で、まるでサイクリング記録(食料調達・野宿・道路状況など)のような文体が続く。
この間、だれかに出会って刺激的な体験をしたりするわけではない。いつも携帯電話にメール着信・受信履歴を気にしながら走っていく。台風の中走っているときでも、携帯電話が濡れないように細心の注意を払う。恋人や友人とはまめにメール交換する。孤独なのだが孤立はしていない。

ロードバイクでレースに出るとか、友と成長していくとか、恋人と心の齟齬が生じるとかといった「青春小説」をイメージすると違和感を感じるだろう。でも、17歳の精神状態が丁寧に描かれているんじゃないかな。根拠のない自信といいかげんさ。身体能力が最高潮の時にあり、そしてかなりHなことも考える年齢。

不思議な小説だ。ロードバイクに長時間乗る人間にはハッとする表現がいくつかある。

■自動車なんかとは違い、身体部品の延長線上に機械があるのだということが、ダイレクトに認識できる。(同書74頁)

■スピードに乗った自転車は、路面の多少の凹凸を平坦なものにしてしまう。こういう時、自分は凶暴な鋼(はがね)の骨に乗っかっているのだと実感する(同書96頁)

■走るのに肝心なことは、車道を堂々と走ることではない。止まりたくても止まらせてくれないような監督を、己の中に持つことだ(同書146頁)

著者はかなりロードバイクに乗っているんじゃないかな。
ある意味、真正な「ロードバイク小説」って感じもする。

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